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前回の記事:「めっき」って何だろう? ~種類と仕組み編③ 無電解めっき~
めっきの種類と仕組み編①で、めっきには湿式と乾式があるという話をしました。
前回までは湿式めっきについての話をしましたので、今回からは乾式めっきについて堀り下げていきましょう。
関連記事:「めっき」って何だろう? ~種類と仕組み編① めっきの種類と分類~
乾式めっきについては以前の講座にて少しご紹介しましたが、ここで少し復習してみましょう。
乾式めっきは、めっきとして付着させたい物質を含んだ気体の中や、真空に近い状態(減圧状態)で行う処理のことです。
めっき液などを使用せず、乾いた状態で処理ができるため乾式と呼ばれています。
乾式めっきは「PVD(物理蒸着法)」と「CVD(化学蒸着法)」の二つに分類することができ、それぞれ次のような特徴を持っています。
今回の講座では、PVD(物理蒸着)とその原理について、もう少しかみ砕いて説明します。
PVDとは、めっき被膜にしたい材料(金属・酸化物など)を、超高温で蒸発させるもしくはレーザー等で飛び散らせてから、製品の表面に物理的にくっつけることでめっき被膜をつくる技術です。
真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングの三種類があり、当社ではイオンプレーティングとスパッタリングを行っています。
真空蒸着は、めっき被膜にしたい材料を真空に近い状態(減圧状態)で蒸発させ、それを製品に付着させて処理を行う方法です。
真空蒸着の仕組み
めっき被膜にできる物質は金属や金属酸化物で、具体的には銀やアルミ、酸化チタンなどが挙げられます。
これらの材料をフィラメントで加熱したり、電子ビーム等を当てたりすることで、蒸発させて気体にします。
気体状になっためっき材料が製品の表面にぶつかると、気体が表面で冷やされて固まり、めっき被膜が形成されます。
鍋でお湯を沸かした時、水蒸気によって鍋蓋の内側に水滴が付着しますね。
真空蒸着の原理はこれと似たイメージとなります。(水蒸気がめっき材料、鍋蓋が製品)
このように、材料が表面に付着することでめっき膜が形成されるため、真空蒸着は他の蒸着方法と比べると密着性はやや劣ります。
しかしその分、材料の粒子を細かくできるため、より薄い膜を形成することができるという長所があります。
プラズマ内でイオン化しためっき被膜の材料を製品に衝突させることで処理を行う方法です。
イオンプレーティングの仕組み
プラズマとは気体分子が陽イオンと電子に分かれた状態のことであり、プラズマの中でめっき材料の粒子が+の電気を帯びた状態へと変わります。
めっきをつけたいもの(製品など)を陰極に設置するとこの粒子が引き寄せられ、表面で電子を受け取ってめっき被膜になるという仕組みです。
イオンプレーティング処理装置
イオンプレーティングでめっき被膜にできる物質は、金属・窒化物・炭化物・酸化物です。
当社ではチタンや金、プラチナなどの素材を扱っています。
イオンプレーティングは処理の性質上、表面が荒かったり溝があったりする製品には上手くめっきがつかず、密着性が落ちてしまうという性質があります。
しかし装置内で品物を回転させて、粒子がまんべんなく堆積できるようにすることで、真空蒸着や湿式めっきと比べて密着性・耐摩耗性の高いめっき被膜をつけることが可能になります。
スパッタリングの仕組み
スパッタリングでは、アルゴンという気体を使用します。
グロー放電という現象を利用してアルゴンガスをプラズマ化し、アルゴンのイオンをターゲット(めっき材料)に叩き付けます。
その衝撃でめっき材料の粒子が飛び散り、製品にくっついてめっき膜が掲載されます。
Cf. グロー放電
グロー放電とは、ガス中の電極間に電流を流した際に発生する放電現象の一種です。
ガスの圧力が低く電極間を流れる電流も小さいと、放電現象が持続的に発生します。
この放電がグロー放電です。
ガスの種類などによって様々な色に発光するため、ネオン管(ネオンサイン)などに使用されています。
電流を大きくすると電気反応が強くなり、アーク放電と呼ばれる別の現象になります。
スパッタリング処理でめっき被膜にできる物質は、金属・合金・金属酸化物などです。
メリットとしては、硬質な被膜が得られること、常温に近い温度で加工できるため耐熱性の低い製品にも処理ができること、などが挙げられます。
しかし、膜の形成に時間がかかってしまう場合があったり、イオンプレーティングと同様、溝がある製品は密着性が落ちてしまったりといったデメリットもあります。
イオンプレーティングとスパッタリングは、金や銀といった金属そのものの色だけでなく、様々な色調を表現することができます。
これは干渉と呼ばれる現象によるもので、処理の際、窯の中に特定のガスを入れてめっき被膜に化学反応を生じさせることで色に変化を与えています。
しかし実際にめっき被膜の色が変わっているわけではなく、めっき被膜に当たった光が屈折して反射することで波長が変わり、様々な色に見えています。
シャボン玉やCDが虹色に反射して見えるのと同じ原理です。
乾式めっきで表現できる色調は、ゴールド・シルバー・グレー・ブラウンなどの他、ブルー・バイオレット・レインボーなど多岐にわたります。
そのため、アクセサリーや腕時計など、デザイン性が求められる製品の装飾にもよく用いられます。
次回は、もう一つの乾式めっきの種類であるCVD(化学蒸着法)について説明します。
「めっき」って何だろう? ~種類と仕組み編④ PVD(物理蒸着)~ おわり