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前回の記事:「めっき」って何だろう? ~種類と仕組み編⑤ CVD(化学蒸着)~
DLCとはダイヤモンドライクカーボン(Diamond-Like Carbon)の頭文字をとった名前で、傷つきにくく滑らかな漆黒の被膜です。
ダイヤモンドライクカーボンは、日本語では「ダイヤモンド状炭素膜」といいます。
ダイヤモンドと黒鉛、両方の特徴を併せ持った炭素(Carbon)被膜なのです。
ダイヤモンドの特徴は誰もがご存じでしょう。
透明で美しく高値で取引される、非常に硬い素材です。
対して黒鉛とは、主に鉛筆の芯の材料であり、その特徴は大変脆く滑らかなことです。
無色透明で硬いダイヤモンドと真っ黒で脆い黒鉛、真逆の性質を持つように見えますが、実はどちらも炭素という同じ元素でできています。
では、いったい何がダイヤモンドと黒鉛を全く違うものとして存在させているのでしょう。
それは、結晶構造という原子と原子の並び方、結びつき方です。
炭素原子同士がsp3結合という結晶構造を作ればダイヤモンドが、sp2結合という結晶構造を作れば黒鉛が出来上がります。
結晶構造、sp2結合、sp3結合の詳細については、ここで書くと複雑になってしまうので割愛させていただきます。
そしてDLC被膜の結晶構造はというと、sp2とsp3が混ざり合っています。
硬いダイヤモンドのsp3と脆い黒鉛のsp2。この二つの構造を併せ持っているため、
DLC(ダイヤモンドライクカーボン)は硬く滑らかな被膜になるのです。
DLC被膜はPVD(物理蒸着法)とCVD(化学蒸着法)の両方で作ることができます。
PVDとCVDについては他の記事で紹介していますので、詳しく知りたい方はそちらもご覧ください。
「めっき」って何だろう? ~種類と仕組み編⑤ CVD(化学蒸着)~
「めっき」って何だろう? ~種類と仕組み編④ PVD(物理蒸着)~
弊社ではCVDの一種であるプラズマCVD法でDLCコーティングを行っています。
下の画像は弊社で利用している装置内部をものすごく簡略化した図です。
まず、装置内でアルゴンという元素のガスをプラズマ化(原子を活性化)します。
そこから飛び出してきたアルゴン電子がDLC処理の原料となるガスの分子に衝突します。
すると原料ガス分子が分解され、電子・イオン・ラジカルといった様々な状態に変化します。
イオンとラジカルは化学的に反応しやすい状態となっているため、これが製品の表面で様々な反応を起こした結果、DLC被膜が生成されます。
炭素は結合や混合物(炭素以外に混ざっている物質)の状態・比率によって様々な性質を持ちます。
DLC被膜は、人工的に結合の割合を変えたり混合物を加えたりといった操作をすることで様々な特性を持つ被膜となります。
前述の高硬度(硬さ)、低摩擦係数(表面の滑らかさ)以外にも以下のようなメリットがあります。
有効性が多岐に渡るため、DLCは幅広い分野において役立っています。
例えば、硬さや低摩擦係数を活かして工具・機械材料のコーティングに、また絶縁性を活かして電気部品によく使用されます。
またDLCは、自然界に多く存在する炭素を含んでいるため環境に優しく、さらに化学的安定性も持ち合わせていることから、医療・食品といった分野にも使われています。
DLC被膜には多くのメリットがありますが、当然デメリットも存在します。
例えば下記のような内容となります。
DLCは、被膜に含まれる混合物(水素など)の量を変えることで性質を調整することができますが、特定の性質を上げすぎるとかえって他のデメリットが大きくなってしまうことがあります。
したがって、作りたい製品の用途に合わせて、適切な組成・条件・成膜方法を選択することが重要となります。
今回はDLC処理についてご紹介しました。
大まかなポイントは以下の内容になります。
湿式めっき・乾式めっきと、これまで数回に渡って紹介してきましたが、めっき処理に関する説明は今回で終了となります。
次回は表面処理技術の一つである「アルマイト(陽極酸化処理)」について紹介していきます。
「めっき」って何だろう? ~種類と仕組み編⑥ DLC~ おわり